川野清三と川野梨花の間には子供がいない。
親友の恵美子に対して、梨花は不妊症についての相談をしていた。しかし親友にも隠している子供が出来ない本当の理由が存在した。
それは夫婦としての夜の営みが、長い間なかったことだった。
きっかけは清三の浮気だった。職場の部下に手を出していたのだ。当然、相手は正志とも面識がある女性ということになるのだが、正志はその事実を知らない。
夫の不倫が発覚以降、梨花は清三の求めを拒み続けていた。
ケラケラと可笑しそうに笑顔を振りまく梨花は、筒井家の子供たちに挟まれる形で朝食の席に着いていた。
その内心はというと―――自分はいつになったら母親になれるのだろうか、と複雑なものだった。
梨花の正面には、寝不足で顔色の悪い正志が座っている。
子供たちにサンドイッチを取り分けながら、横目で正志の顔を見た梨花。その視線を感じた正志と目が合い慌てて顔を反らす。
みるみるうちに頬が朱に染まった。
「梨花、どうしたの?」
親友の様子を見ていた恵美子が怪訝な顔で声を掛けた。
「―――え!? な、なんでもない。うん。なんでもないよ」
しどろもどろに答えた梨花は、声を掛けた恵美子と目を合わせようとはしなかった。
―――もう~~~! あんなエッチな声を聞かされるなんて・・・・・・
俯いた梨花は昨夜の記憶が蘇り、恥ずかしそうに唇を噛んだのだった。
昨晩―――筒井家の子供たちをロフトのベッドで寝かしつけていた梨花は、そのまま一緒に眠ってしまっていた。
そして夜中にふと目を覚ますと、下の方から男女の荒い息遣いが聞こえてきたのだった。
すぐにアレの声だと気が付いた梨花は息を殺した。何の疑いもなく筒井夫婦の営みだと思い込んだのだ。
耳をそばだてると、ベッドの軋む音の合間にくぐもった恵美子の喘ぎ声が聞こえた。しばらくして吸ったり舐めたりする湿った音が聞こえ始めると、夫婦の営みから遠のいていた梨花の渇いた秘所は久しぶりに湿り気を帯びた。
下着の濡れ具合を確かめるために下半身に手をやる梨花。
震える指先はマグマのように熱い泥濘を捉えた。そして自分の意志とは関係なく指先が埋没し、抜き差しを始めたのだ。
枕に顔を埋め、喘ぎ声を抑えながら、夫とのセックスを思い浮かべて梨花は何度も昇りつめたのだった。
正面の席に座る正志の顔を、梨花はチラリと盗み見た。
―――夫とは違って優しそうなのに・・・・・・ 自分の奥さんをあんなに激しく責め立てるんだから・・・・・・ 人は見かけによらないのね
人差し指を唇にあてがう。口を軽く開き、指先を甘噛みしながら梨花は思った。
清三と昼食までの予定について話し合っている正志は、梨花の熱の籠った視線に気が付かない。
コメント