新車は7人乗りで、2列目に座席が2つ、3列目がベンチシートになっている。
運転は正志、助手席に恵美子が座わり、2列目には運転席側にチャイルドシートの香住と、その横に梨花が座った。香住は梨花に懐いていて、おそらく帰宅するまで梨花を離さないだろう。
3列目の運転席側には、荷台に乗らなかったバーベキューの食材などが積まれ、そのために3列目シート中央に清三が座り、その横に小学生の正彦が座っている。正彦は、父から持ってこないよう言われていた携帯ゲームに夢中になっていた。
出発して15分が過ぎ、渋滞もなく順調に市街地を抜けた。高速道路に乗る手前で、清三が運転を変わると申し出た。
「・・・・・・それが、保険は家族限定なんだよ」
「それじゃあ、筒井さんがずっと運転? なんだか申し訳ないわね。休憩したくなったら、遠慮なく止まってくださいね」
清三の申し出を保険を理由に断ると、2列目に座る梨花が頭を下げる。ルームミラー越しに、頭を上げた梨花と目が合った正志が、「ありがとう」と言って笑い掛けた。
初日の行程は順調に思えた。しかしアクシデントは―――、突然にやってくる。
高速道路に流入し暫くして、父の言葉を無視し携帯ゲームに興じていた正彦が車酔いをしたのだ。
以前にも同じようなことがあり、前の車で嘔吐された時は、1か月以上も臭いが取れなかったことがあった。
―――頼むから、新車の中で吐かないでくれよ
過去のいやな臭いを思い出しながら、正志はアクセルを踏み込み、なんとか次のサービスエリアに飛び込むことができた。
「正彦、大丈夫?」
サービスエリアのベンチに座らせた正彦の背中を、恵美子がさすって介抱している。かれこれ30分くらい外の風に当たっているせいか、土気色の顔色に朱が差してきた。
長男の回復を待つ間、正志は長女のトイレを済ませ、売店を一回りした。川野夫婦も売店を見て回って、清三が缶ビール数本とつまみを購入した。
「ビールならクーラーボックスにたんまりあるよ」
長女を連れた正志が、レジの行列に並ぶ清三に声を掛ける。
「運転手に遠慮してんだよ。車の中でこっそり飲む分だ」
「気を遣わせて悪かったよ」
「真顔で答えるなよ、冗談だ、冗談」
「あんまり飲み過ぎるなよ」
「あん? キャンプで飲まないと、実績低調な部下を持つ上司は一体どこで発散すればいいんだよ」
清三は冗談のつもりだろうが、部下の正志は笑えない。それに清三の酒癖の悪さを知っていることから、ますます気が重たくなるのだった。
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