正志がベッドの中で目を覚ます数時間前―――。
滅多にお目にかかれない上物のウイスキーで酔い潰れた正志を、清三がベッドに運んでいた。
その様子を手伝う素振りもなく、ただ黙って恵美子は見ていた。
酔いつぶれた正志を運び終えた清三が、恵美子の座るソファーへと戻る。
会話はない。熱のこもった清三の視線を避けるようにして恵美子が立ち上がり、入れ替わりで正志のベッドに近づいた。
「―――あなた? 大丈夫? もう寝るの?」
夫の顔を覗き込むように腰を屈めた恵美子が、声量を抑えて声を掛けた。
正志は既に寝息を立てていて、起きる気配は微塵もなかった。恵美子は正志の肩に手を掛け、軽くゆすって執拗に夫の眠りを確認した。
このまま夫のベッドに入り一緒に眠ってしまうという選択もあった。
しかし恵美子の頭の中では、行きの車内で言われた、「続がしたい」という清三の言葉が生々しく再生されていた。
少し迷った恵美子だったが、夫の肩にタオルケットを掛けると清三の座るソファーへ戻ったのだった。
戻ってくる恵美子の動きを、グラスを傾けながら清三は目で追っていた。
「よく寝てます」
「相変わらず酒に弱いな」
「寝てしまうとなかなか起きないんです」
清三の隣に座った恵美子は、なんら必要のない夫の状態を説明する。
―――私は何を言っているのかしら
酒の影響なのか、体全体が熱を持ったような感覚で思考も鈍っていた。
「恵美ちゃん、もう少し付き合ってよ」
手にしたグラスにウイスキーを注ぎ足して、清三は言葉を続けた。
「これ美味しいだろ?」
顔の高さに持ち上げたグラス越しに、清三の目が恵美子を捉えていた。
「高価なんですよね。正直に言うとお酒の味はよく分かりません」
「飲み慣れてないんだね。今度一緒に飲みに行こうよ。ほら見てごらん、ちょうど氷が溶けてこうなったら生地より飲みやすい」
清三は自分が飲んでいるグラスを、すっと恵美子の顔の前に近づけた。
「ほら飲んでみて」
「あっ、はい」
反射的に恵美子はグラスを受け取ってしまう。
グラスに注がれた琥珀色の液体を暫く見つめていた恵美子は、やがてゆっくりとした動作でグラスに口をつけた。こくりと一口飲むと、恵美子の喉が上下に妖しく動いた。
人妻の恵美子が、夫の同期であり上司でもある男の使用しているグラスに躊躇いながらも口をつけた。
男としては、女の見せた行動を積極的と捉えるのが普通だろう。
恵美子がテーブルにグラスを置くと、いきなり清三が腰を浮かせて距離を詰めた。
正面から抱き着かれた恵美子は、半身をよじって逃れようとするが、大柄な清三に覆いかぶさられる形で足を投げ出すとソファーの上で簡単に組み敷かれてしまった。
「―――ちょ、川野さん! 離してください!」
「車の中での続き――― OKってことだろ」
「ち、違います・・・・・・」
「でも俺に付き合ってくれてる。嫌ならさっき筒井と寝てもよかっただろ?」
正直なところ恵美子は自分の考えが判らなくなっていた。
清三と2人きりの危険な時間は、清三の言うとおり夫のベッドに入れば回避できたはずだった。しかし心の何処かで不貞行為の続きを求めている卑しい気持ちが存在していた。
車内で清三に体を弄ばれ、セックスレスの牝の体が目を覚ましていたのだ。
恵美子の抵抗は、ほぼ言葉だけの弱いものだった。
グラスの中の氷が一回り小さくなった頃には、恵美子の首筋は清三の唾液にまみれ、間接照明に照らされてぬらぬらと淫靡な輝きを放っていた。
「川野さん・・・・・・ うっ! ううぁん」
「恵美ちゃん―――」
恵美子の首筋をねぶりまわしていた清三の舌が上気した肌を伝い上がり、ぷっくりと突き出されている唇の間に差し込まれた。
清三の舌と恵美子の舌がぶつかり合い、すぐに絡み合った。ぺちゃぺちゃと粘質の音が響き渡る。
「俺の舌を吸ってくれ」
一旦口を離した清三が言った。
「・・・・・・ぃや」
発した言葉とは反対に、恵美子は言われるまま頬をすぼめて清三の舌を吸った。流し込まれた清三の唾液が喉の奥に絡み、味覚で男を感じた。
夫とはしたことのない卑猥なキスに酔いしれる。清三が舌を引っ込めると、恵美子の舌がそれを追い掛け、反対に清三が恵美子の舌を口腔内へ迎え入れた。
間接照明に照らされたソファー周辺の空間。
その奥には互いの家族の眠るベッドがある。
部屋の仕切りはなく、ソファーでの痴態はバレれてしまえば、それまでの人間関係や生活環境を一変させる危険をはらんだものだった。
それなのに久しぶりに欲情の火がついた恵美子は、禁断の行為を止めることはできなかった。
ソファーの上でなまめかしい絡み合いが続く。
深いキスを交わしながら、ベッドから聞こえる子供たちの寝息や、それぞれの伴侶の寝返りの気配に背徳感を煽られ、2人は強い興奮を覚えていた。
互いが酸素を求めて口を離すと、今度は清三の唇が恵美子の首筋に吸い付いた。恵美子は顎を突き出してそれを受け止め、清三の両手が服の上から恵美子の豊満な乳房を揉み上げた。
「舐め合いっこしようか」
「―――!?」
清三の言葉に息を止めた恵美子は、夫の眠るベッドの方向に意識を集中した。
規則正しい寝息が聞こえてきた。舐め合いっこ、という言葉の響きに顔が上気し、愛液が一気にしみ出したのが分かった。
「舐め合い? い、イヤっっっ恥ずかしい―――」
「だめ?」
「ぜ、絶対に内緒ですよ・・・・・・」
恵美子はダメとは言わなかった。
その目は2児の母親の目ではなく欲情に濡れた女の目だった。
「今夜のことは共通の秘密だ。一緒に気持ちよくなろう」
恵美子の承諾の言葉を聞いて、清三の手が恵美子の服の裾を捲るようにして侵入した。ブラジャーのカップを強引に引っ張ると、恵美子の乳房が解放されたようにこぼれ出た。
「はぁぁぁん」
乳房を揉みしだかれる恵美子は甘い吐息を吐き出した。
清三の片手が恵美子のズボンに掛かった。清三の意図を察した恵美子は、積極的に腰を浮かせて自らズボンを膝まで押し下げた。次に清三の足が引き受けて、器用に恵美子のズボンを足から引き抜いた。
露わになった恵美子の太ももを、清三の無骨な手のひらが撫で上げる。片手で乳房を弄び、顔を押し付けて尖った乳首を強く吸いたてた。
「―――はぁあん!」
清三が恵美子のショーツに手を掛けると、恵美子がまたしても抜き取りやすいように腰を浮かせた。
「もうドロドロだ」
いやらし笑みを浮かべた清三の指が、汗をかいた割れ目をゆっくりと往復した。
「いやぁ、言わないでください。あ、ああ、うっ!」
恵美子の割れ目に沿って指を這わせながら、清三は素早く自身の下半身を露出させる。そして恵美子の手を握りエレクトした肉棒に導いた。
遠慮がちに絡みついた恵美子の指。夫とは違う太くて長くて逞しい他人棒の感触に戸惑いつつも、握り込んだ手を上下に動かし始める。
2人は暫く互いの性器を触り合い、徐々に体を滑らせていった。
ソファーの上で清三が仰向けになり、恵美子が上になって跨ってシックスナインの姿勢を完成させた。
「恥ずかしい―――」
清三の顔の上で跨った恵美子の耳が真っ赤に染まる。そして操縦かんのように両手でバキバキに勃起した他人棒を握り込んだ。
ドロドロに溶けている恵美子の股間を間近に見た清三はゴクリと喉を鳴らす。そして唾液をたっぷり含ませた舌を割れ目に這わせた。
「―――っうは!! うううっっっ―――」
抑えの効かない恵美子の喘ぎ声が上る。清三が舌でクリトリスを刺激してやると、恵美子の喘ぎ声は更に大きくなった。
「うううっっっ! はああああ~!」
初々し恵美子の反応に興奮を強めた清三が、催促するように腰を浮かせた。
目の前に突き立つ他人棒―――大きな口を開けて恵美子が一気に咥え込んだ。
「―――うっ!」
恵美子が咥え込んだ肉棒の根元を意識せず唇で締め付ける。清三は堪えきれず声を上げた。
すぐに恵美子の頭が上下運動を開始した。
「うっいいぞ、恵美ちゃん―――まさかこんなに積極的に」
「嫌ぁ、ぶぃわないで、じゅぶ―――」
フェラチオが開始されるとクリトリスにしゃぶりついていた清三の口が離れた。そして愛液にまみれている割れ目に舌をねじ込んだ。
「ぶぶやぁあ!! うううぶうぶううう」
口を肉棒で塞がれている恵美子は、豚が鳴くようにはしたない声を上げた。
恵美子にとってシックスナインは久しぶりだった。独身の頃にシックスナインの好きな彼氏がいた事を思い出す。
夫のものをしゃぶった経験はあったが、結婚してからこんなに股間を舐められたという経験はなかった。
清三は舌を固く尖らせて、届く範囲で割れ目をほじくった。
股間から広がる快感の波と、口の中一杯に広がる肉棒の味に恵美子は白目を剥きながら徐々に昇りつめていった。
「―――ぶぶぶっ! イグ、イぶグっっっ!!」
「俺も出る!」
恵美子が絶頂に達すると同時に、清三の腰がせり上がり射精が始まった。
亀頭を喉の一番深いところで咥え込んだ恵美子は頭の動きを止めて射精を受け止めた。
―――ああ凄い! それに何て量なのよ!
口腔内に苦く青臭い味が広がり、すぼめた口の中に精液が溜まったてゆく。肉棒を咥えたままの恵美子は、少し迷っただけで、口の中の精液をゆっくりと飲み干した。
恵美子は、清三の体から下りてベッドの方へ意識を集中させた。誰も起き出した気配はなく、規則正しい寝息が聞こえてくる。
清三は仰向けのままで、満足そうな表情をしていた。
「よかったよ」
言いながら清三の手が恵美子の体を抱き寄せた。
「も、もう休みます。絶対に内緒にしてください」
清三の体を押しのけながら恵美子が答えた。
―――ああ、ダメなのに。あなた、梨花ごめんなさい
大きな絶頂を経て冷静になった恵美子は、人妻の貞操観念を取り戻し、後悔の表情を浮かべていた。
そんな恵美子の様子に清三は無言で頷いた。
立ち上がった恵美子が素早く服装を整えた。清三も気怠そうに立ち上がりズボンを履いた。
「シャワーを使うと起きるかもな」
正志の隣のベッドが空いていた。梨花はシングルベッドの香住と添い寝をしている。
長男と添い寝か、夫のベッドにもぐり込むことを考えていた恵美子は、清三の言葉に動きを止めた。シャワーを浴びなければ、不貞の臭は取れそうにない。
「恵美ちゃんは遠慮なく空いてるベッドで寝てよ。俺はここを片付けてソファーで寝る」
恵美子にとって選択の余地はなく、清三の提案を素直に受け入れた。
「じゃあ、ベッドを使わせてもらいます。あの、今夜のことは・・・・・・」
「共通の秘密。少し強引だったと思う、悪かった」
清三が頭を下げて謝罪した。今更感はあるが、盛大に気をやった恵美子は、怒る気持ちにはなれなかった。
「・・・・・・もういいです。私もなんだかんだ言って―――」
「ズバリ、欲求不満? あいつとしてない?」
「う~ん、正直全然です。でも、こんな事をした言い訳にならないし、梨花の事を考えると今夜のことは忘れて下さいね」
「忘れられるかな・・・・・・」
「―――ダメです。忘れてください。それから絶対に内緒ですから」
「努力するよ。じゃあ、おやすみ」
言った清三が、恵美子にキスをしようと顔を近づけた。
少し時間を遡れば、恵美子は求めに応じることはなかった。しかし少し迷っただけで、仕方がないといった表情を作り唇を尖らせて求めに応じたのだった。
不貞行為の共犯者になったことで、2人の距離は確実に近づいていた。
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