時刻は夜の10時を回っていた。
田中の連れの渡辺君は戻っていない。頭上の会話を盗み聞く限りでは、車庫でバイクのメンテナンス中なのだろう。
もしかしたら渡辺君は田中の共犯者なのかもしれない。田中が妻を口説くことを前提として、邪魔にならないようにしているのではないのか。最愛の妻の裏切りを前に、僕は疑心暗鬼になっていた。
頭上の寝台では―――田中が射精した後も2人は離れる気配がなかった。
「奥さん、なんだか僕だけ気持ちよくなってしまって・・・・・・ すみません」
「謝らないでいいのよ、若いんだから。私も久しぶりって感じで―――――― こ、興奮したわ・・・・・・」
「もしかして、相当たまってるとか?」
「バレた?」
「えっ!? やっぱりですか?」
「バカ、もぅ~冗談よ。でも・・・・・・ ちょっとだけ欲求不満かもね」
軟派な田中の話術にまんまと踊らされている妻。照れ隠しのつもりか、夫の自分に見せない少しおどけた口調が癇に障った。
「だったら僕が協力します」
「協力って? もう、だめよ。これ以上は本当にダメ。夫が起きちゃう」
「振られちゃいました」
「田中君を振るもなにも―――私は人妻なんだから」
「―――ですよね。調子に乗っちゃいました」
「ううん、大丈夫よ。私もちょっとドキドキできたし」
「そう言ってもらえると助かります」
どうやら妻の冒険もここまでで終わりのようだ。夫として胸をなでおろす。しかし不思議なことに安堵感が広がる胸中に、少しだけ残念な気持ちが存在していた。僕自身、一体なにを考えているんだろうか・・・・・・。
「――――――どうしました?」
不思議そうに尋ねる田中の声。解散ムードだったのに―――妻は何をやっているんだ。
「う~ん、ちょっと取れなくて」
「あっ! すみません。ウェットティッシュがあるんで僕が綺麗に拭きます」
田中が寝台を移動し、自分の荷物を漁る音がした。再び妻の元に戻ってくると頭上の寝台が大きく音を立てて軋んだ。
「自分でやるから大丈夫よ」
「僕がやります。けっこう出ちゃったんで・・・・・・」
「若いから仕方ないわ。じゃあ、お願い――――――」
暫く会話が途切れ、僅かな衣擦れの音と2人の生々しい息遣いだけが聞こえていた。
想像したくはないが、妻の体に田中の放出した大量の青臭い精液が飛び散って付着しているのだろう。妻は大人しく体を拭かれているようだ。
腕なのか太ももなのか、はたまた胸なのか・・・・・・。丁寧に時間をかけて体の隅々までをウェットティッシュで拭かれる愛妻―――終わりかけた妻の冒険はその後の展開を見せる。
「ちょっと、ダメ、駄目よ。あっ、くすぐったいよ田中君――― ふふふ、だめ、だったらぁ~」
突然、ぎしぎしと寝台が軋み、笑いを堪えるような妻の声が聞こえた。
大体、想像がついた―――。
田中は精力を持て余している若い学生である。
射精した直後にもかかわらず、妻の体に触れるうちに再び欲情したのだろう。ちょっかいを出し始めたのだ。
「じっとしててください」
「だ、だって、そこは違うって、そんなところに付いてないから」
「付いてますよ。僕のザーメンが」
「ざ、ザーメン?」
「そうです。僕の濃いザーメン」
「ザーメンって精液のこと?」
「そうです。奥さんの大好きなやつ」
「もう、意地悪な言い方しないの。ザーメンって言い方、なんだかいやらしいわね~」
「奥さん、もう一度ザーメンって言ってください」
「嫌だ~、田中君の変態――― こら、駄目、くすぐったい――――――ふふふ」
恋人のようにじゃれ合う妻と田中。夫が下で寝ているというのに・・・・・・。会話の後半、妻は甘えた声で田中の行為を受け入れていた。
「服脱ぎましょうか」
「脱ぐのぉ?」
田中の提案に甘ったるい声で答える妻。一体どこから出しているのかと思うくらい鼻にかかっていた。
「汗もかいたし、ついでだから体の隅々まで綺麗にしますよ」
「隅々までぇ?」
「そう頭のてっぺんから足の先まで全部です」
「・・・・・・もうぉ、知らない」
2人の動く気配がした。衣擦れの音が響く中、寝台が軋む。
「ちょっと腰を浮かして――― 足を、そう、そうです」
「全部脱ぐのぉ?」
「全部です」
妻の脱衣を田中が手伝っている様子だ。真っ裸になるという事は、つまりそういう事なのだろうか。狸寝入りを決め込む僕の心臓の鼓動が激しくなる。
「―――綺麗です」
「いやぁ~ん、恥ずかしいから、そんなに見ないでぇ」
会話の流れから妻が服を脱ぎ、さらに下着まで手放したことを想像した。
「ひぃん! もう、どうして舐めるのよ。 拭くんじゃなかったの?」
「もうウエットティッシュがなくなりました」
「僕が舐めて綺麗にしますよ」
「ちょ、ちょっと待って、あああぅぅぅ、そこ、あっ、ダメ、いやぁあん―――」
頭上の行為を想像して正直興奮していた。
治まりかけていた自身の勃起―――血液が流れ込んで瞬時に硬くなる。
今までに一度も聞いた事のないような妻のいやらしい声と若い燕との淫猥な会話。一体どこを舐められて、そんないやらしい声を出しているんだろう。
「恥ずかしがらないでください。綺麗ですよ。さあ、足を開いて・・・・・・」
「うっ、恥ずかしい~、ダメなんだから――― っう!? っぅううう、あああん、そんなところ舐めたら駄目なんだから~」
「凄い綺麗です。それにびちゃびちゃですよ」
「恥ずかしいから、うううはぁああん、言わないでぇ~~~」
間違いない。妻はアソコを舐められたようだ。それもまだ知り合って間もない男にだ。そう思うと何故だか興奮が増した。
「うぅっ、はあああん!」
「クリトリス舐められるの好きなんですか―――」
「―――ふぁああん、そんなにペロペロ、ああ、っつ吸わないでぇ~~~」
下で僕が寝ているというのに、頭上の行為は激しさを増していた。
このまま渡辺君が帰ってこなければ、本番行為に及ぶのではないのかと危惧する。
日常とは違う様子の妻を見てみたい―――僕の我儘な欲求から始まった狸寝入り。
本当のところ、僕自身もこの先に何を期待しているのか、何処までなら許せるのかが分かっていなかった。
ぴちゃ、ぴちゃ、ちゅう、ちゅう―――水っぽい湿り気を帯びたいやらしい音が室内に響いている。
頭上の寝台は小刻みに軋み、否応なしに2人の体勢や行為を想像させた。僕は射精感に堪えながら勃起した一物をゆっくりと扱く。
「―――っぁぁぁあああんんん」
一際大きな妻の嬌声。寝台が大きく軋む。
じゅる、じゅる、ちゅぽ、といやらしく吸い立てるような音が連続した。
「駄目、あああ、ダメダメダメェェェ、くるの、くる、クル、クルっ!!」
「奥さん、エロいっす!」
「―――っっっうぁあああ、いく! いくっ、イクイクイク、イっ~~~クぅぅぅんんん!」
愛妻が夫以外の男にアソコを舐められて盛大に気をやった。
直後にドスンっ―――、と頭上の寝台が大きな音をたてて揺れる。
絶頂でせり上がった妻の腰―――脱力して寝台に落ちたのだろう。
荒い息遣いの中、妻は甘えたような声を上げる。
「ねぇ、こっち向いて――― キスして」
接吻をねだる妻の甘ったるい声を聞いた瞬間、僕は静かに射精した。
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