擬似、請負い妻 第17話

NTR官能小説
 子供のオムツを交換すると、ピタリと泣き止んだ。しかも目がぱっちりと開いている。一度抱き上げてから、体を揺らして寝かし付けようと試みるが俺では役不足だった。
 
 なかなか寝てくれない。普段から、育児に参加してこなかったことを痛感した。

 焦る気持ちを抑えつつ、我慢強く子供を寝かし付けた。リビングを離れてから、かれこれ15分は経過していた。
 
 どこか確信めいたものがあった。リビングの二人は、俺のことを待ってはいないだろう。寝息を立て始めた子供の顔を眺めながら考えた。

 ―――俺の中の選択肢は2つ。
 
 療治に立ち会うために普通にダイニングに戻るのか、それとも邪魔をしないように寝室に留まる振りをして、こっそり戻って覗き見るかのどちらかだった。

 ダイニングに正面から戻れば、俺の望んでいる妄想が具現化されている可能性が高い。近くで観察できるチャンスではあるのだが、よく考えてみれば、その行為は俺の登場で必ず中断されるだろう。
 
 そこからセックス再開の見込みは低いように思われた。考えた結果、寝室に留まりこっそりと戻って覗き見ることにした。

 寝室に留まるために、「子供がぐずってなかなか寝てくれなかった」「そのまま眠くなり一緒に寝てしまった」というもっともらしい言い訳を考えておく。

 俺という強力なストッパーがいなければ、タガの外れたリビングの二人は、どんな痴態を繰り広げているのやら。

 もしかすると、俺が部屋を後にしてすぐに挿入を果たしているのかもしれない。ゆり子は口では拒否しながらも、腰をずらして挿入を手助けしたのではないのか。そしてもう二回戦目に突入いているのでは―――妄想が大きく膨らんだ。

 子供を無事寝かし付けた俺は、勃起したままの状態で静かに寝室を後にした。
 ゆっくりと、慎重に廊下を進む。リビングの方向からは何も聞こえてこない。リビングの出入り口は二人のいる位置から近すぎると考えた俺は、ダイニングの出入り口を目指した。

 足を忍ばせながら、落ち着き払っている自分を認識していた。妻が寝取られているかもしれないという状況を前にして、冷静でいられる自分がなんだか嫌になる。

 閉じられたダイニングの出入り口を前に、身を屈めて床に這いつくばる姿勢を取った。耳を澄ませてリビングの気配を探った。
 
 すると今まで聞こえなかった二人の息遣いや喘ぎ声、それに小さく声量を抑えた会話が聞こえてきたのだった。

「う、ああん、あ、あああん」

「―――気持ちいいよ、ゆり子ちゃん」

「っああん、だ、ダメ。うぁぁぁあああん、気持ちいいよキム兄ぃん」

 荒い呼吸の合間にお互いの名前を呼び合う声が聞こえた。それと一定のリズムを刻む腰を振り立てる気配が伝わってきた。

 部屋の中を覗きたいが、扉を開ける勇気はない。物音や気配で俺の存在がバレる可能性を考えれば、廊下の床に這いつくばって耳を澄ましているしかなかった。

「ね、ねえ。もうすぐ戻ってくるよ。音がしたら・・・・・・ 抜いて―――」

 抜いて!? ああ・・・・・・やっぱりそうなったか。
 ゆり子の言葉は既に挿入がなされたことを示していた。妻の言葉を聞いて、怒りよりも体が震えるほどの興奮を覚えた。

「―――分かってる。このまま出してもいいかな」

「・・・・・・ゴム着けてるから、いいよ。あ、あ、うっ、うううはぁああ」

 興奮に包まれながらも、大きな嫉妬と小さな怒りの感情はあった。セックスの気配を感じながら、俺は扉の前で二人の交わりを想像する―――。

 俺が出て行って、木村が強引に求める。本当はすぐにでもやりたかったところを我慢して、ゆり子が上辺だけの拒絶の言葉を吐く。そして木村の懇願の言葉に、簡単に貞操を捨てるのだ。
 
 仕方がないといった感じを醸し出し、療治だから、と言い訳を繰り返し口にするゆり子。俺がいないのをいいことに、蜜を溢れさせた膣口を淫猥に開き、肉棒を挿入し易いよう、丁寧に位置を調節して。ショーツは履いたままで、裾から差し入れられた木村の肉棒を正常位のゆり子が嬉しそうに奥まで咥え込む―――。
 
 俺の妄想の中に現実の会話が混じった。

「絶対に、内緒、よ。おっ、お見合いのため、だからね。音がしたら、すぐに、ああっ抜いて」

「わ、わかってる。あっ、い、いきそうだよ」

「うぁ、うううん。いっていいよ。わ、私もイキ、そう――― うう、うううああん」

「ゆり子ちゃん、いい、いいよ。正直に言うと、うう、前から、前から気になってた」

「ば、バカ。キム兄のバカ。ああ、ああん――― い、いま言うかな、そんなこと」

「ごめん」

「ああ、いい、いいん。あ、あ、あああっんあああ。内緒だから、いま言ったことも、絶対に、内緒。っくあ、嫌じゃないよ、私も」

「ゆ、ゆり子ちゃん・・・・・・ ありがとう。つつつっ、い、イキそうだ」

「きてキム兄ぃ、一緒にいこ」

「ああ、出すよ―――」

「―――っつああ、い、いく、イクイクイク~~~!!」

 リビングの気配が大きく膨らんだ気がした。そして訪れる静寂―――。
 その中で荒い二人の息遣いだけが聞こえてきた。

 それにしても、ゆり子を女として見ていたとは、木村の告白には驚いた。セックスごっこのはずが、ついに俺の妄想が実現してしまった。自ら望んだことで正直後悔はない。
 
 下半身の生温かい感覚で、いつの間にかパンツの中で射精していたことに気が付いた。

 リビングの中の二人は、息も絶え絶えの様子で、ボソボソと小さい声で会話をしていた。

「ありがとう。気持ちよかった。本当に童貞卒業ができたよ」

「絶対に内緒だからね。二人の秘密。これで自信を持ってお見合いできるね」

「ああ、自信が持てた。ただ・・・・・・」

「ただ?」

「見合い相手より、ゆり子ちゃんの方が気になるかな」

「ば、バカ! 私は親友の奥さんよ。ちょ、ちょっとだけ嬉しいけど―――」

「―――えっ!? 嬉しい?」

「だから人妻だって。ダメなの」

「分かってるよ。ただ、もう一回・・・・・・ 気持ちよすぎてさ、もう一回したくなった」

「凄い、もう復活? あー駄目よ、ダメ。もう終わり。親友の奥さんを口説いちゃ。今夜の事は内緒。絶対にひみつ」

「分かってる。本当にゆり子ちゃんとした・・なんて信太に言えるわけがない」

「よしよし。お利口さん」

 ゴソゴソと衣擦れの音があり、その後で軽く、ちゅ、とキスを交わす音が聞こえた。

「もう一回、だめ?」

「バカ。キム兄がお利口さんにしてたら、そのうち良いことあるかもね」

「それって―――」

「―――知らない」

 会話の後で、小さく二人が笑い合う。そして、再びキスの音。今度は、唾液を交換するような濡れた音だった。

 いやらしいキスの音が止むと、部屋の中で立ち上がる気配があった。

 慌てて踵を返し中腰で寝室へ逃げ帰ると、子供はぐっすり寝ていた。俺は静かにそして素早くベッドに横になった。目を瞑って狸寝入りを決め込んだ。

 暫くして、ゆり子が寝室に入ってくる気配があった。近づいてきて目を瞑る俺の顔をまじまじと観察しているようだ。

「・・・・・・信太。ねぇ信太」

 ゆり子に揺り起こされた俺は気怠そうに上半身を持ち上げ、いつの間にか眠ってしまっていた、というような雰囲気を醸し出して芝居をうった。

「・・・・・・終わったのか」

「うん」

 こちらの様子を窺っているゆり子の言葉は少なめだ。

「戻ってこないから心配しちゃた。あんたが出て行ってすぐに終わったのよ」

「―――そうか。でっ、キムは?」

「うん、疲れてリビングで寝てる」

「射精したのか?」

「出したよ・・・・・・」

「そうか、お疲れ。ありがとうな」

「うん」
 
 短い遣り取りでも、夫婦の会話はどこかぎこちなかった。暗い部屋の中で、ゆり子の表情は窺えない。

「私、シャワー浴びるから」

「ああ、俺はトイレに行って先に寝てるわ」

「―――うん」

 短い返事をしたゆり子は、何か言いたげな雰囲気だったが、暫く待っても言葉はなく、結局は何も言わずに寝室を後にした。
 
 俺はトイレを済ませ、真っ暗になったリビングを覗いてみた。すると療治に使用した布団の上で寝転んでいる木村の影が見えた。
 よほど疲れたのだろう、大きなイビキをかいて既に夢の中だった。妻の体を使っておいて、呑気なものだ。

 寝室に戻ると、強い眠気が襲ってきた。俺も非日常の中で精神的に疲弊したということだろう。ゆり子を待たずに横になる。
 
 ベッドの上で瞼を閉じれば、今夜の出来事が思い返されて雑多な感情が押し寄せてきた。それでもすぐに眠りへ落ちた。

 ―――ゆり子が寝室に戻ってきた音で、意識が半分だけ覚醒した。
 
 眠りに落ちてから、感覚的に10分かそこらだと思う。まどろみの中で隣に横になったのが分かった。頭を俺の肩先に寄せてきたので腕枕をすると、シャンプーのいい香りがした。そして今度は深い眠りに落ちたのだった。


 ◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇


 暗闇の中で不意に目が覚めた。カーテンの隙間から陽光が差し込んでいないことから、まだ夜が明けていないことが分かる。近くで子供の穏やかな寝息が聞こえた。
 
 自然と隣に手を伸ばす。しかし、いつもの温もりに触れることはなかった。がばっと体を起こしてベッド上を確認するが、ゆり子の定位置はもぬけの殻で、寝室に妻の姿はなかった。

 とりあえず枕元に置いていたスマートフォンに手を伸ばして時間を確認すると、午前4時を少し回ったところだった。

 トイレに立ったのだろうか、という安易な想像は早鐘を打つ胸の鼓動に搔き消された。起き出した俺は寝室を後にして、木村の眠るリビングを静かに目指した。

 進行方向から光は漏れてきていない。耳を澄ませてみても、不気味なほどに静かで、何も聞こえてはこなかった。

 本能的にリビングの扉は避けた。

 ダイニング側から近づくと、扉が開いていた。前屈みの姿勢で、顔だけ出して中を覗いた。背中に嫌な汗をかきながら、恐る恐るリビングの方を見ると寝ていたはずの木村の姿もなかった。

 俺の妻と、俺の親友の2人の姿が消えた。嫌な予感に口の中が乾く―――。
 
 今夜の療治の中で、部屋を後にした俺の見ていなかった結末を想像する。
 見合いの成功を目指して始めた療治だった。その延長にあったであろう今夜のセックスは、自分が望み、そして誘導した結果なのだ。なのに、どうしてこんなに動揺しているのかが自分でも分からない。

 療治の最中に感じた大きな興奮は、目の前で妻と木村をコントロールできていたという安心感に裏打ちされたものだったのだ。いざ目の前から二人が消え、コントロール不能に陥ると、途端に大きな不安に見舞われた。

 大きく息を吐いてから、周囲の気配を探る。リビングとダイニングには二人の気配はなかった。どこからか僅かだが、水が流れる音が聞こえる。
 
 小さな家の中で思い当たる場所といえば―――俺は脱衣場の前に立った。

 ドアは閉まっていて、中の電灯は消えていた。しかし微かだが、浴室の電灯の光が脱衣場のドアの隙間から漏れていた。

 もしもこの先の浴室でゆり子と木村が抱き合っていたとしたら、それは先に行われたであろうセックスとは別物だと思った。自分が知らない所での妻の不貞は、けっして認められない。
 
 自分勝手な考えだが、ゆり子が自分の意志で他の男に抱かれるなどということを考えるだけで、嫉妬に狂いそうになる。

 中の状況を確認した後に、一体どのような行動をとればよいのだろうか。
 若しかしたら、体が勝手に動くかもしれない。その時は、最悪の結末を迎えるだろう。一瞬だけドアを開けるのを躊躇った。

 ―――静かに脱衣場のドアを開けた。

 水量を絞っているのか、控えめなシャワーの流れる音が聞こえた。
 
 浴室の扉は半透明のアクリル板で、そこに映っている痴態―――目にしても意外と冷静でいられた自分に驚いた。たぶん先の療治で、おかしな耐性が付いているのかもしれない。
 
 浴室以外の電灯が消えているために、半透明のアクリル板はその効果を半減させていた。全裸の二人の姿が不鮮明にぼやけて見えた。

 浴室の中では、ゆり子が腰を折って前屈みにの姿勢を取っていた。
 前に伸ばした腕の先は見えないものの、おそらくは浴槽の縁に手を掛けているのだろう。立ちバックで木村に貫かれているようだった。水音にまじって、ぱんぱん、と腰を打ちつける音が聞こえ始めた。

「―――うっ、うう、うっ、ううっあん」
 
 近所の手前もあり喘ぎ声を必死で抑えているようも聞こえるが、絞り出すような低い喘ぎ声を聞くと深く感じているのではないのかと思ってしまう。

「ゆ、ゆり子ちゃん、ゆり子ちゃん―――」
 
 妻の背面に位置する木村は、夫の俺が聞いているとも知らずにゆり子の名前を繰り返し口にしていた。

「もっと突いて―――ああん、そう、そうよ、もっと、ううっ激しく!」
 
 初めて聞いた妻の性に対する貪欲な言葉だった。
 俺の股間が反応する。ゆり子の反応に腰を打ちつける音が大きく、間隔が早くなった。

「うっああぁぁぁ、っいいぃぃぃのん、キム、兄、キム兄―――!」

 突然、喘ぎ声が大きくなった。
 段々と抑えが効かなくなっているようだった。さらに腰を打ちつける音の間隔が短くなる。
 
「―――ぎぃ、ぎいいいくくうぅ、イク、イクイクイクイクイク~~~、っイグぅううう!!」
 
 ゆり子が盛大に気をやった。
 夫とは別の男―――夫の親友を相手に・・・・・・。
 夫の俺でも聞いた事のない、そんなはしたない声を浴室に響かせるなんて。

 欲望を丸出しにした、喉の奥から絞り出すようなゆり子の絶頂の声を聞いて何もかもが手遅れだったことを悟った。

 本当はセックスごっこを許した時点で、この結末は決まっていたのかもしれない。
 
 もう不貞行為を断罪するような気持ちは失せていて、そっとドアを閉めて俺は1人で脱衣場を後にした。

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