木村の見合いに至るまでの経緯―――女性恐怖症に対する俺たちの行いを正直に珠希さんに話した後、いよいよ本題へと入った。
「―――で、1度も、ないの?」
「・・・・・・」「・・・・・・」
遠慮がちなゆり子の言葉に、無言で小さく頷く木村夫婦。
木村は唇を固く結び、珠希さんは頬を赤く染めている。
「そう、なんだ・・・・・・」
聞いたゆり子が、返ってきた2人の反応に苦笑する。
ゆり子の考えはなんとなくわかる。だって、自分とはセックスができていたのだから。ゆり子は実感として女性恐怖症が完治したものだと考えていたはずだ。
それに当の本人も不思議に思っているだろう。ゆり子とはできて、自分が人生のパートナーに選んだ魅力的な女性とはできないなんて―――。
まあ~他所の女―――人妻には興奮する、っていう男の身勝手な心理は木村の置かれている状況とは違うし、新婚の木村にはまだ早い欲求だ。
「珠希としたい気持ちはあるのに勃起しない」
気心の知れた俺たち夫婦にあけすけと告白する木村。
その横で少し恥ずかしそうな表情を作った珠希さんが俺の顔をチラリと見た。一瞬だけ目が合うと、すぐに視線を逸らせた。
照れた仕草の珠希さんは魅力的で、どうしてもあの夜の出来事―――アイマスクを着用し両手を拘束された珠希さんの恵体を弄んだ場面が脳裏に浮かんでしまう。
あのぷっくりとした蠱惑的な唇や、服の下の隠しきれない大きな双丘を味わい尽くしたんだ。
真剣な話し合いの最中、俺はテーブルの下で密かに勃起していた。隣のゆり子に気付かれないように、眉間に皺をよせ真剣過ぎる表情を作った。
壁に掛かっている時計を見ると午後3時を少し回っていた。
木村の相談から始まった俺たち夫婦と木村夫婦の話し合いは簡単に終わるはずもなく―――後で託児の延長を実家に電話しておこう。
「―――というわけで、素股ってわかるかな・・・・・・ 最後まで出来たんだ」
新婚初夜を迎える事ができない木村夫婦。
勃起しない木村が、療治でどのように改善したのかを申し訳なさそうに珠希さんに説明していた。
「―――最後まで!? それって、達男さんがゆり子さんと?」
「も、もちろん擬似的なものだったのよ。私は下着を着けたままで――― キム兄が言う最後までっていうのは・・・・・・ そのー、ごめんなさい」
とつとつと語るゆり子と木村の話を聞きながら、口に手を当てた珠希さんは目を白黒とさせていた。
「あの時は俺も立ち会ってたし、荒療治というか――― 見合いまでに時間がなかったから・・・・・・」
木村のためにも、なんとか俺たちのやってきたことを理解してもらいたかった。
懸命に説明する俺の顔を珠希さんが凝視していた。
「ちょっとびっくりしたけど、冗談で言ってるわけでは―――」
「―――はい、真面目な話しです。俺から言ってゆり子に協力してもらって―――、それであの時は女性恐怖症を克服できたと思っていたんですが・・・・・・」
「でも、やっぱり治ってなかった、のかな・・・・・・ 私にも原因が―――」
「―――違うよ、珠希。あくまでも原因は俺にあるんだ。珠希には本当に悪いと思ってる」
親友の悲痛な顔。珠希さんの儚げな表情。なんだか諦めムードが漂っているように感じた。新婚の夫婦ならば、もっと幸せオーラ全開であるはずなのに。
目の前の夫婦のやり取りを見ていると、いたたまれない気持ちになった。
「一時は改善したんだ。今回もなんとかやってみないか?」
具体的な方策を思い付いたわけではなかった。でも、親友として提案せずにはいられなかった。
ゆり子と木村夫婦の視線が俺に集まった。
「なんとかって、なによ?」
「なんとかは、なんとかだ。それをみんなで考えよう」
療治のことでも思い返したのだろうか、眉間の辺りを揉みながらゆり子が聞いてきた。
勿論、明確な考えなどありはしない。
諦めムードに支配された場の流れを、希望の持てる方向へ変えてやりたいがための中身のない提案。
それでも俺の気持ちを珠希さんは汲んでくれたのだと思う。
「よろしくお願いします」
俺たち夫婦に向かって珠希さんは頭を下げた。それを見た木村も黙って倣う。
「顔を上げて珠希さん」
「キムもやめろ」
顔を上げた夫婦の表情は真剣だった。横に座るゆり子を見る。すると小さく息を吐いて、仕方がない、といった表情で肯いてくれた。
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