人妻秘書ゆり子~変態社長のセクハラに穢されて1

短編 或いは after story
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 肌寒さが残る4月の中旬。
 薄汚れた雑居ビル5階の事務所。

 着なれないベーシックカラーのスーツスカートを履いた海原ゆり子は、午前中の遅い時間に出社した社長のためにコーヒーを淹れていた。

 でっぷりと太った初老の男で、やたらと目つきが鋭い。ゆり子にとっては生理的に受け付けないタイプの男で‥‥‥それでも悲しいかな雇い主だった。

 2歳になる長男は保育園に預けていた。正社員ではなくパート。働き始めることについて夫の反応は小さかった。今の時代、共働きの家庭は当たり前のこと。

 幸いなことに、ゆり子の夫は妻の職場にあまり興味を示さなかった。そのため事務職とだけ伝え、正確な会社名までは知られていない。

 応接セットのソファーにでんと腰を下ろしている社長の前に、コーヒーカップを身を屈めて丁寧に置いた。
 社長の目がゆり子のブラウス越しの胸元に注がれている。

「ゆり子の淹れてくれたコーヒーは美味いな」

 ゆり子は出勤初日から社長に下の名前を呼び捨てにされていた。
 夫や親しい友人たちとは違う。相手は社長で、それに自分の身体を舐めまわすように見てくるセクハラ男だ。最近では声を聞くだけで体が拒絶し嫌な汗をかいた。

「ありがとうございます」

 ゆり子は素っ気ない態度で答えると、退室するために踵を返した。その腕が分厚くて大きな手にグッと掴まれる。

「―――ひっ!?」

 小さな悲鳴を上げ、ゆり子は咄嗟に振り返った。そして目にまっさきに飛び込んできたのは社長のいやらしく歪んだ口元で、嫌な予感に寒気を覚える。

「まあ、ちょっと待て。秘書がそんな怖い顔をするんじぇねーよ。ほらここ、俺の横に座れ。これからミーティングだ」

 ソファーから腰を浮かせた社長に強引に腕を引かれると、ゆり子の細い身体がバランスを崩してそのまま社長の横に―――。

 身体同士が密着し、ゆり子の肩に社長の腕が回された。

 やむを得ない事情から仕方なく社長秘書として雇われてはいるが、セクハラを容認するつもりはなかった。

「しゃ、社長、嫌、止めてください。こういうのは、こ、困ります‥‥‥」

 ゆり子は身をよじって逃げ出そうとした。だが、その肩をがっちりと抱かれてしまう。

「何が困るもんか。いつものミーティングだろ。そんなことより仕事には慣れたか?」

「ダメ‥‥‥離れてください」

「俺が聞いてるんだ、仕事には慣れたのか?」

 ゆり子は拒絶の言葉を喉の奥から絞り出した。しかし目を細めて威圧感を増した社長の前ではまったく効果がなく、かえって社長の加虐心を刺激してしまう。

「人妻の嫌がる顔は色っぽいな。おまえが俺に意見できる立場か? さっさと俺の聞いたことに答えろ、ゆり子」

「‥‥‥まだ、慣れません」

 逃げ出せないと悟ったゆり子は、身体の力を抜いて小さな声で答えた。

「そうか、慣れねーか」

「はい」

「まだ逢ってんのか?」

 言いながらこんどは社長の顔がゆり子の首筋に寄せられた。
 鼻から大きく息を吸い込み匂いを嗅ぎ取る仕草をする。

「あぁ、そんな‥‥‥」

「俺は発情した牝の匂いがわかるんだぜ。ああ~うちの秘書は良い匂いがする」

 ブラウスの襟からすっと伸びたゆり子の首筋に生ぬるい舌先が触れた。

「うっ‥‥‥」

 声を詰まらせたゆり子はそのまま下を向いた。その様子に社長が満足そうな笑みを浮かべた。ヌラヌラと唾液に塗れた舌がゆり子の首筋を味わうように舐め上げる。じゅるじゅるとワザと卑猥な音を出し、何度も唾液を塗り込むように―――。

「い、嫌ぁ」

 ゆり子はおとなしい性格ではない。どちらかと言えばハキハキと話をするタイプである。普段なら絶対にセクハラを容認することはない。だが、しかし口を堅く結んでひたすら堪えていた。

 そこに、

「社長―――」

いきなり社長室のドアが開けられ顔がのぞいた。

「―――貴子! いつもノックしろって言ってんだろうが」

「はい、はい、すいませ~ん。お客さんですよ」

 事務所にはゆり子以外に受付の社員が一人いた。名前は森下貴子。歳はゆり子より上でブランド物の服とアクセサリーを身につけた派手目な印象の女性だった。ゆり子と社長がソファーで身体を寄せ合っている場面を目撃しても、まったく気にする様子はない。

 社長は、「ちっ」と大きな舌打ちをして、ゆり子から身体を離した。そのまま部屋を出ていく。ドアが閉まる瞬間、廊下に残っていた貴子がゆり子にウインクをした。


 社長が客と一緒に外出した後もユリ子の心臓は激しく鼓動を打ち続けていた。
 その日の午後は、何度もトイレに駆け込み冷たい水で顔を洗った。深呼吸を繰り返しても社長の行為が頭から離れず、身体には震えるほどの恐怖と悔しさが残っていた。

「ねぇ大丈夫?」

 貴子が心配そうに声をかけた。ゆり子は暗い顔で頷いた。

「あんた気をつけた方がいいわ。社長―――吾妻ごさいは危険な男よ。私もあんたと同じ立場だったことがあるの。だから忠告してあげるわ」

 ゆり子は驚きとさらなる恐怖に包まれた。

(この人も同じような経験を!? 私の事情を知られている‥‥‥?)

 そう考えると、ゆり子はもう誰も信用できなくなってしまった。

「ありがとうございます‥‥‥」

 ゆり子は礼を言いながらも、内心では警戒心を解かなかった。


 保育園に立ち寄り長男と一緒に家に帰ると、夫が仕事先から直帰したとのことで珍しく出迎えてくれた。普段の生活に戻ることでゆり子は少しだけ安心感を取り戻したが、社長のセクハラと貴子の言葉が頭から離れないでいた。

「ゆり子、パートは続けれそうか?」

 夫が優しく声をかけた。

「うん、大丈夫よ‥‥‥うん」

 本当の事情など言えるはずがない。ゆり子は無理に笑顔を作って答えた。しかし、心の中ではこれから先どう対処すればいいのかを考え続けていた。

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