―――筒井家のミニバンは帰途に就いた。 キャンプ場を離れてそれほど時間は経っていない。 3列目のシートに座る正志は、夏の日差しが厳しさを増したように感じた。たぶん最後尾の席でエアコンの効きが悪いせいだろう。 「もう少し温度を下げてくれないかな」 額に汗を滲ませた正志が、ハンドルを握る清三に言った。 「っん? 一番後ろは吹き出し口がないのか?」 答えた清三が操作パネルに手を伸ばす。それを助手席に座る恵美子の手が制した。 「―――駄目よ、子供たちが風邪をひくから」 すこし強い口調の恵美子の言葉に、清三が手を引っ込める。 清三は暑さを訴えたルームミラー越しの正志とその隣に座る梨花に視線を向けた。 座席の間から後ろを振り返った恵美子が、身を乗り出すようにして2列目に座る子供たちにブランケットを掛ける。 つい今しがたまで名残惜しそうに窓の外を流れる緑の景色に見入っていたはずなのだが、キャンプ場での疲れが一気に噴き出し、ほぼ同時に眠りに落ちていた。 行きと帰りとでは、2家族の座る位置が違っていた。 子供たちは眠ってしまうことを想定して背もたれが倒せる2列目の座席に並んで座らされていた。 運転席に清三が乗り込むと、梨花は夫を避けるようにして3列目のシートに座った。 すこし迷った正志が助手席に近づくと、「私が―――」と言って恵美子が助手席に乗り込んでしまった。そうして正志は梨花の隣に座ることになった。 ―――なんで川野の隣なんだよ・・・・・・ 迷うことなく清三の隣を選んだ妻を、正志は恨めしく思った。そして片付けの最中に清三と抱き合っていた場面を思い出した。 恋人のように抱き合う2人。出発前に清三の隣を選んで乗車した恵美子の行動に落胆した。 二家族6人を乗せたミニバンは、高速道路のインターチェンジを目指して田舎道を順調に進んで行く。 初めて座った自分の車の3列目のシート。座り心地の悪さに正志は車に酔ってしまった。 運転席の清三と助手席の恵美子が何やら話をしている。その内容は、FMラジオから流れる懐メロが邪魔をして3列目のシートに座る正志と梨花には聞き取れないでいた。 恋人のように笑い合っている恵美子と清三。 昔から口の上手い清三がリードする形で会話が盛り上がっていた。そんな様子にムッとした正志が大きな声で会話に割って入る。 「疲れたらいつでも運転替わるから―――」 「わかった」 正志の掛けた言葉にルームミラー越しに後ろを覗いた清三が邪魔だと言わんばかりに低い声で短く返答した。 助手席の恵美子は夫の声が聞こえると笑顔を引っ込め、運転席の方に向けていた顔を正面に戻した。 複雑な感情を抱えた正志は、深い溜息をついた。 なるべく妻と川野の2人を意識しないように視線を外の景色に向けた。
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