カウンター越しに聞こえてくる生々しいキスの音や息遣いだけで、心臓が高鳴りフル勃起していた。だから認めざるを得なかった。俺の性癖は歪んでいる。
もとからなのか‥‥‥そうでなければ思い当たるのは木村の療治―――妻と木村のセックスごっこが原因だろう。
腹は立つ。俺の中で怒りの感情が沸き立つのを感じる。だが、体中を駆け巡っている変態的で大きな興奮には抗えそうになかった。
今夜は何としても特等席で妻と親友の不貞を見届けてやる。
我が家の灯りは1階のリビングのみが点いていて、俺のいるキッチンは同じ空間でも薄暗く身を潜めるのには都合がよかった。
膝を床について四つん這いの姿勢。
静かにカウンターの端まで移動した。
意を決し、顔を覗かせようとしたところでゆり子が口を開いた。
「キム兄、がっつきすぎぃ~」
「明日は信太が帰ってくるだろ」
「そうだけど、そんなに激しくされると我慢できなくなるじゃん。キム兄の女性恐怖症を治すためなんだから」
ゆり子は自分への言い訳なのか、この期に及んでまだ療治と言い張っていた。
気持はわからなくもないが、夫が出張中の家に男を引き入れている時点でやる気満々なのだが‥‥‥。
「わかってるって。俺のためを思って付き合ってくれてるゆり子ちゃんは悪くない。でも悪いゆり子ちゃんも見てみたい―――!」
「―――あっ!? ちょ、ちょっと待って‥‥‥い、やぁん‥‥‥」
リビングの方から二人が揉み合うような気配とゴソゴソと衣擦れの音が聞こえてきた。そしてソファーに倒れ込むような音が響くと、「ちゅうちゅう」と肌に吸い付くような淫猥な音が耳に届いた。
明らかに先程まで聞こえていたキスの音とは違った。
「うっ‥‥‥そんなに吸って赤ちゃんみたい。昨日みたいに咬んじゃだめだから―――はぁあああん!」
―――昨日みたいに‥‥‥!? やっぱり浮気してたのか‥‥‥
二人の会話から我慢できなくなった。四つん這いの姿勢のままカウンターの端から慎重に顔だけ出す。
まず最初に目の中に飛び込んできた光景は、見慣れた我が家のソファーとその上で重なり合っているゆり子と木村の姿だった。
長男の姿は近くにない。もうすでに2階の寝室で寝かされているのだろう。
四つの足裏がこちら側に向いていた。ゆり子の頭はキッチンから遠い方の肘置きを枕にし、夫である俺にいやらしい牝の貌を晒していた。
「ゆり子ちゃんのミルク‥‥‥おいしい」
恥ずかしげもなくそう言った木村の頭は、ゆり子のはだけた胸のあたりに位置していた。口元は見えないが、タコの吸盤みたいにゆり子の乳首に吸い付いているのが窺える。
ゆり子は一児の母だ。2歳になる長男はとうに母乳を卒業しているのだが、今でも母乳が出ていた。量は少なくなったと聞いてはいたが、それを親友の木村が味わっているという事実に眩暈を覚えた。一物がビクビクと脈打ち全身に興奮を運ぶ。
「あ、はぁあああん―――!」
ゆり子が我慢できないという表情を見せ喘ぎ声を漏らした。その瞬間、頭を反らせてか細い喉元をのぞかせた。
そのままゆり子の腕が木村の頭を愛おしそうに抱きかかえる。
「キム兄‥‥‥キム兄が私のオッパイ飲んでるぅ‥‥‥あ、あん、あっ―――オッパイ好きすぎ、本当の赤ちゃんみたい」
「ゆり子ちゃんの赤ちゃんなら、なってもいいかな」
―――ふざけたことを言いやがって!!
木村の話を聞いて殴ってやりたいという暴力的な衝動に駆られた。だが、すぐに変態的な興奮によって上書きされてしまう。
四つん這いの姿勢を維持したまま右手でズボンのチャックを下ろした。そしてフル勃起した一物を取り出し扱き始める。
「じゃあ、キム兄のママになろうか? でも私の子供になるんならエッチできないけど」
「ゆり子ちゃん、そりゃないよ~」
言い訳がましく、「女性恐怖症を治すため」なんてことを言ってたはずなのに、やはりゆり子は今夜セックスする気満々だ。
「寝室、行こ」
それは罪悪感からなのか、はたまた照れているだけのなか。ゆり子の声は明らかに小さく抑え気味だった。
「え‥‥‥!? いいの? 昨日は嫌がってたけど大丈夫?」
ゆり子の声に比べて木村の声は喜びで弾けていた。こいつが俺の寝室でゆり子とセックスするなんて‥‥‥考えただけで射精しそうになる。
「‥‥‥いいよ」
いくら浮気をしているとはいっても、夫の留守中に夫婦の寝室でヤルのは普通に抵抗があると思うのだが‥‥‥。
昨日はダメで、今日が大丈夫な理由。昨日の今日で慣れてしまったのか、それとも―――、
「実家に預けたから」
いけないことをしている自覚があるからだろうか、ゆり子がポツリと零すように言った。顔を赤らめ木村の反応を待っている。
そんな妻の様子に、身を潜めている俺ができることと言ったら一物を扱くことと、口に溜まった唾液を飲み込むことしかなくて―――嗚呼、良き母親のゆり子が今夜セックスを愉しむために子供を実家に預けているとは‥‥‥強い射精感に見舞われた。
「昨日は声抑えてたもんね。朝までコース確定」
「キム兄のバカ」
二人がリビングのソファーから立ち上がった。小声で何かを囁き合い、恋人のように抱き合ってキスを交わしている。
俺はカウンターからのぞかせていた頭を引っ込めた。部屋の灯りが消えると二人の気配が階段を上がり2階へと移動する。
俺たち夫婦は長男が生まれてからずっとセックスレスだった。
ゆり子は子供を生んでから母親へと変わり―――その当たり前の事実が日常となってしまって‥‥‥いつしか俺は、ゆり子のことを女性として見れなくなっていた。
―――ゆり子と最後にセックスしたのはいつだったか‥‥‥
胸の奥に今更になって後悔が生まれた。
が、先ほどの暴力的な衝動と同じですぐに変態的な興奮に上書きされてしまう。
今夜俺が目撃したのは間違いなくゆり子の欲情した牝の貌だった。
その貌が俺たち夫婦の寝室でどんなふうに歪み、そして乱れるのだろうか? そう考えたところで射精が始まりキッチンの床を汚した。


コメント
この章をありがとう。次の章が待ちきれません。いつになるのでしょうか…
いいですね~
旦那の懊悩がいいですね
次回楽しみです^^