―――和義が同級生の間宮に持ち掛けた計画。
妻の乱れる姿を画面越しに見た和義は、医者が無理だと言った勃起に至った。それは地獄に垂れてきた蜘蛛の糸に等しく、この僅かな兆候を逃すことはできなかった。
しかし問題があった。愛妻と自分の父親のセックスである。画面越しの愉悦に歪む愛妻の顔を見る度に自身の下腹部に熱を感じるのだが、その行為を目にするたび心が大きな悲鳴を上げ続け―――間男となった実の父親に対する憎悪の感情が日増しに大きく育っていった。
その結果、義理の親子の隠れたセックスをいくら覗き見ても、自身の一物は全く反応しなくなってしまった。
確実に愛妻のいやらしく乱れる姿に、自身の一物は反応していたはずである。そこで焦燥に駆られた和義は、愛妻のセックスの相手が赤の他人であればどうなんだろうか、という考えに至った。
そう考えると、不自由な現状の和義の頭に何人かの顔が浮かんだ。その中に隠しカメラの設置を依頼した間宮の顔もあったのだ。
和義は、その間宮についてある疑念を持っていた。
隠しカメラの映像出力―――ネットで調べてみれば、スマホに繋げる過程でパスワードを設定するらしい。それがあれば複数台の機器で映像を共有できるとも―――間宮はパスワードを知っていた。
もしかしたら自分と同じ映像をどこかで見ていた、ということはないのだろうか―――和義は色々な可能性を模索しながら間宮を引き入れての計画を練り上げたのだった。
◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇
玄関ドアの向こうから掃除機の低い稼働音が聞こえていた。
2回目の呼び鈴で掃除機の音が止まると、ドアスコープに影が差して外の様子を窺うような気配がした。
「―――どちら様?」
落ち着いた声音で用件を問う声がすると、スコープ越しの男―――スーツ姿の間宮は目を細めて、ニッと薄い唇を引き結ぶようにして不自然な笑顔を作った。
「こんにちは。間宮と言います。鈴木さん―――― あーっ、鈴木和義君の同級でして・・・・・・ 近くに寄ったものでので」
頭に手をやった間宮が遠慮がちに言うと、中から「あっ」と聞こえて、カチっと玄関ドアの鍵が開く。
ドア越しの男が、以前に夫が招いた同級生の1人であったことを覚えていた美智は、警戒心を解いてトレーナーにジーンズという軽装を気にしながらもドアを開けた。
「突然すいませんねぇ」
頭を軽く下げた間宮。言葉とは裏腹に、くくく、という人を馬鹿にしたような小さな笑いが語尾に絡んでいる。本人は愛想よく笑ったつもりでも、その顔は引きつっていて、歪に開いた口から赤黒い舌先がチロチロと覗いていた。
応対に出た美智の顔に、女の本能からか自然と嫌悪の感情が浮かぶ。
「確か主人の・・・・・・」
「はい。同級生の間宮です。こちらに戻ってきてから一度お招き頂きました」
言いながら間宮の赤黒い舌先がチロリと出てきて、乾いた上唇を舐める。そして目の前に現れた、誰にも言えない特級の秘密を抱えた美しい人妻に対して、まるで品定めをするような不躾な視線を向けた。
(な、なに!? なんなのこの人は―――)
色白で整った顔立ちとは不釣り合いに見える、卑猥とも表現されそうなスイカのように膨らんだ胸元に間宮の視線が突き刺ささる。
「あ、あの・・・・・・ なんの御用でしょうか?」
平日の午前中であった。
夫は母親の付き添いでリハビリに行っている。この家の主―――義父の昌義は仕事でいない。今は0歳児の長女と2人っきりだった。夫から間宮の来訪について聞いていない美智は不信を募らせた。
「折角来て頂いて申し訳ないんですけど、主人は病院の方でして」
妙な緊張感に包まれ早く応対を終えたい美智は、開けたドアのノブから手を離さないでいる。
「そうですか。それは残念ですが・・・・・・一向にかまいませんよ。今日は奥さんに用事があったんでね―――!」
「―――えっ!?」
広くはない玄関の中に美智の体を押しやるようにして宮間は距離を詰めた。
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