リビングに背を向けて、ダイニングテーブルの椅子に陣取った。ゆり子に言われた訳ではなかった。建前を言うのであれば、二人が療治に集中するために、ということになる。
二人から距離を取ったことに、ゆり子は別段触れてこなかった。夫として、少し寂しいと感じる。しかし勃起の収まらない現状ではありがたかった。
二人から背を向けて椅子に座ると、リビングのテレビが消えた。静かになった部屋では、背後から聞こえる二人の息遣いや衣擦れの音が鮮明になった。
「始めるから・・・・・・」
抑制の効いた声で、ゆり子が療治の開始を告げた―――。
木村の意識から存在を消さなければならない俺は、声には出さずに大きく頷く動作で返事をした。すぐにゴソゴソと衣擦れの音が聞こえて、クシャクシャとセロハンを丸めるような音がする。
「―――いいから、じっとしてて」
子供に言い聞かせるような感じのゆり子の声に続いて、「はい」と緊張気味の木村の短い返事が聞こえた。前回と同じように、ゆり子が木村の一物にコンドームを装着している光景が目に浮かぶ。
「ふふふ、すごいね」
小さな笑い声を上げたゆり子。その後に続いた言葉には、どこか甘い響きが含まれていた。上手く隠しているようでも、夫の俺にはゆり子の興奮が手に取る様に分かった。
コンドームの装着を終えたのか、寝転がる気配があって、「いいよ」とゆり子が言った。
俺の座った位置からは、背後の二人の様子を見ることはできない。俺はポケットから取り出したスマートフォンをテーブルの上に置いた。
画面は真っ暗で何も表示されてはいない。鏡のようにダイニングの照明を反射していた。実はその方が都合がよいのだ―――。
スマートフォンの画面をのぞくと、瞳孔の開いたような目で興奮極まった自分の顔がくっきりと映って見えた。素早く画面の角度を調整する。体を半身に近い形に開き、背後の二人を画面に捉えた。
いつの間にか上半身の服も脱いで、木村は真っ裸になっていた。コンドームを着け敷布団の上のゆり子を見下ろす形で膝立ち状態だった。
仰向けに寝ころんでいるゆり子はTシャツを着ているものの、下半身はショーツ1枚で恥ずかしげもなく両足を広げて木村を迎え入れる体勢になっていた。
スマートフォンの画面が小さいのでよくは見えないが、ゆり子のTシャツの胸にはノーブラを示す二つの突起が確認できた。一応は夫として、ノーブラかよ、と心中で毒づいてみる。しかしどこか白々しい気持ちになった。
俺の心の声が聞こえたのだろうか、木村がこっちを見た。
俺が背中を向けている事を確認すると、視線をゆり子の顔に戻した。ゆり子も、木村の視線につられるようにしてこっちを見たが、俺に視線を留めることはなかった。
正面に突き出した両腕を、ゆり子が大きく開いた。実際は動作だけなのだが、「来て」という甘えた声が聞こえたように錯覚した。
のっそりとした緩やかな動作で、木村の体がゆり子の股の間に入り込む。両手をゆり子の頭の横に突いて、ゆっくりと体を沈めていった。
二人の体が重なると、木村の背中にゆり子の両手が回された。画面の中の二人は、暫く無言で抱き合って静止する。
背後の二人―――いわば医者と患者の関係性である。それなのに抱き合って見つめ合う様は、恋人同士のようにしか見えなかった。
「・・・・・・掛けて」
肌を密着させて最初に口を開いたのはゆり子だった。
囁くような小さな声―――傍にあったタオルケットを木村が引き寄せて腰辺りに掛けると、二人の接点となる股間部分が見えなくなる。
タオルケットを掛けると木村の臀部が前後にゆっくりと動き出した。ゆり子の股間を守るのは、薄い生地のショーツ一枚。俺の複雑な心境は誰も理解できまい。
タオルケットの中では、コンドームを被せただけの猛った木村の一物が、ショーツ越しにゆり子の股間の上を擦り付けるようにして行き来していることが想像できた。
最初の療治に立ち会って以降、俺はおかしな妄想に取り憑かれている。その妄想というのは、親友の木村と最愛の妻ゆり子が、俺の目の前で本気のセックスをするというものだった。
一旦妄想に浸ると、マスターベーションで一回抜かなければ現実に立ち返ることが難しかったほどに―――。
もちろん夫婦関係に取り返しのつかない事態が訪れるという恐怖心はあった。しかし妄想の実現を望んでいる自分が、初めての療治以降に間違いなく存在していた。
いざ目の前で紙一重の素股が始まると、引き返せないかもしれないという恐怖心がだんだんと大きくなってゆく。
「うっ、うっ、ううぁん、あっ、あああっん」
「ゆり子ちゃん――― う、うぉ、き、気持ちいい」
ゴムと布一枚だけで隔たれた素股は、最初の療治の時とは次元の違う快感を二人にもたらしているようだった。
療治が始まってすぐに、ゆり子が切羽詰まったような、途切れ途切れの呻き声のようなものを上げ始めた。
背を向けているとはいえ、夫が傍にいる手前、込み上げてくる快感を我慢しているのだろう。画面の中のゆり子は、眉間に皺を寄せて、必死に木村の肩にしがみついていた。
「あ、ああ、ああああっっ――― い、いっ、いぐっふん」
程なくして、ゆり子が白い首筋を晒すようにして頭を後方へのけ反らした。療治を主導しているはずが、短時間でまさかの絶頂を迎えたのだ。本人も驚いている様子だった。
軽い絶頂を迎えたゆり子の体は、いやらしく小刻みに痙攣している。絶頂を迎えながら、戸惑いの表情を浮かべるゆり子の視線が俺の背中に向けられた。
「た、タイム。待って、あっ、ま、待って―――」
絶頂の途上でも木村の腰の動きは止まらない。俺の背中を見つめるゆり子が、もがくように言った。
腰を懸命に振り立てている木村は、経験不足からか、ゆり子の小さな絶頂に気付かないでいた。止まらない腰の動きで、絶頂の波が収まる前に、ゆり子はさらなる快感の波に飲み込まれた。
「―――うっ、うう、はっん、ああん、ダメだって!」
子供が出来てから俺たち夫婦はセックスレスが続いていた。
前回の療治を通じて、ゆり子は久しぶりに女としての悦びを味わったはずだ。それを夫ではなく、夫の親友に与えられてどんな感情なのだろうか。
「あぐぁああ、あああ、だ、ダメ、ああああ―――」
頭を激しく左右に振って、快感の波に抗っているように見えるのは、やはり俺の存在を意識しているからなのだろう。もしこの場に俺が立ち会っていなかったら、ゆり子の反応は違っていたのだろうか。
苦しそうなゆり子を見ていると、夫として傍にいることに罪悪感すら覚えてしまう。スマートフォンの画面越しにゆり子の切ない視線を感じつつ、俺は微動だにせず二人に背を向け続けた。
「―――痛っ!」
妻の嬌声が暫く続いた後に、短い悲鳴に似た木村の声が聞こえた。画面を注視すると、木村の肩先にゆり子が歯を立てたようだった。
その行為は―――ゆり子の性癖と言えた。夫である俺は、そのことをよく知っている。あまりの気持ちよさに耐えかねた時に見せるゆり子の嗜虐的な癖―――。
同じ空間にいながら、自分の妻が夫ではない男の肌に噛みついて歯形を残す。倒錯した感情に支配される。
ゆり子が本気で感じている証を見せたことで、俺の滾った一物が嬉しそうに何度もビクビクと痙攣した。
嚙まれた肩先に視線をやった木村の腰の動きが速まった。ゆり子が肩先から口を離すと、すぐに木村の唇がゆり子の唇の後を追った。
「いや、ダメ・・・・・・」
頭を振って木村の唇をかわしているゆり子の視線が俺の背中に突き刺さる。
「お願い。我慢できない―――」
「―――駄目。ルール違反だよ」
答えながら、ゆり子の視線は俺の背中と木村の顔を交互に行き来していた。
「あいつ見てないから。お願い、ちょっとだけだから」
「ダメだって。キム兄・・・・・・」
夫の俺に聞かせたくないのか、ゆり子の声が段々と小さくなってゆく。
「大丈夫だって。信太は見てないから。お願い・・・・・・」
懇願され、戸惑うゆり子の視線が、俺の背中に暫く留まった。
―――そしてスマートフォンの画面越しのゆり子の顔が、いやらしく歪んだように見えた。それは、けして人妻が見せてはいけない類の表情だった。
「ち、ちょとだけだからね。キム兄のお願いだから・・・・・・ 一回だけだからね」
言い終えたばかりのゆり子の顔に、我慢の限界を迎えた木村の顔が重なる。
ちゅ、ちゅ、といった軽いキスの音。すぐに、ぶちゅう~じゅるじゅる、といった口の中を貪るような激しい音に変わった。
「お見合いが成功するためだからね。あっ、ちょっと、ちょ、ぶちゅっ、とだけだから」
木村に言っているように聞こえるが、言い訳がましいその言い方は、背中を向けている夫の俺に対して話しているようにも聞こえる。
背後で始まったキスを黙認した俺の股間は、いよいよ限界を迎えつつあった。俺が微動だにしないことをいいことに、背後のキスを交わす音が更に激しいものへと変化した。
口腔内を蹂躙されて息が出来ないためなのか、苦しそうなゆり子の呻き声が漏れ聞こえた。
俺の妻と、俺の親友が、俺の背後で素股を行いながらルール違反のディープキスを交わしている。
激しいキスの音を耳にしていると、もしかしたら、ゆり子も積極的に自身の舌を絡めにいっているのではないのかと想像してしまう。
―――最近俺がずっと取り憑かれているおかしな妄想が具現化しつつある。画面に映る素股の動きと、激しく貪り合うキスの音で、俺はパンツの中で簡単に射精してしまった。
精液を吐き出し終えたところで、背後のキスの音が聞こえなくなる。スマートフォンの画面を確認すると、木村にTシャツを捲り上げられているゆり子の姿が映っていた。
捲り上げられたTシャツの裾を掴んで引き下ろそうとしているゆり子。その抵抗には必死さが感じられず、やはり形だけのものだったようですぐに止んだ。
シャツの裾が首の辺りまで捲れ上がると、子供を産んでからサイズアップした乳房が飛び出した。
先端の大きな乳輪と黒ずんだ乳首がいやらしい。抵抗していたはずなのだが、乳首はぷくりと腫れあがって勃起していた。
人妻の乳房を目の前にして、木村が喉を鳴らす。テクニックという言葉とは程遠く、両の乳房を鷲掴みにして懸命に揉み始めた。暫くガサツな愛撫を続けていた木村だったが、次に両の乳首を指先で摘まんだ。
「―――っつつつううぁあああ!」
眉間に皺を寄せて痛みに耐えているゆり子の表情は煽情的で、夫の俺から見ても、もの凄く色っぽく見えた。
息を大きく吸い込んだ木村が胸の谷間に顔を埋めた。親友が自分の妻の乳房にむしゃぶりつく様は想像以上のインパクトだ。射精を終えたばかりの俺の一物は萎んで半立ち状態だったが、学生の頃のようにすぐに硬さを取り戻した。
ゆり子の乳首を吸い立てる木村は、時折、確認するような視線を俺の背中に向けてくる。ゆり子は責め立てられている状況を見られたくないのか、どこかすがる様な表情で俺の背中を見つめていた。
背後の二人は、俺の手元のスマートフォンに気が付いていない。もし仮に、手元のスマートフォンを目にしたとしても、画面の反射を利用して後方を覗いているとは考えないだろう。
乳首を吸い立てていた木村が、突然驚いたように目を見開いた。すぐに美味そうに喉を鳴らす。
おそらくだが、刺激されたゆり子の乳房から母乳が漏れ出たのではないのだろうか。そういえば、母乳がまだ止まらない、とゆり子が言っていた事を思い出した。
ちゅぱちゅぱ、と湿り気を含んだいやらしい音がリビング・ダイニングに響く。
「―――痛い!」
ゆり子が声を上げた。乳首に歯を立てられたのだろうか。ゆり子の声には構わず、木村はちゅうちゅうと乳房を吸い続けた。
「はぅんん」
痛みを訴えたゆり子だったが、その言葉の後には喘声が続いた。そして木村の腰の動きは、乳房に吸い付きながらも一定のリズムを刻んでいた。
タオルケットで熱がこもるのか、二人はすでに汗にまみれている。療治のルール違反を犯し、俺に隠れるようにして絡みあう二人の様子は、もはや療治とは言えず、恋人同士のセックスにしか見えなかった。
妄想が具現化する一歩手前だと感じた。もう少し詳細に行為を観察したいと思った。思い付きでカメラを起動する。動画撮影モードにして、自撮りモードに切り替えてみた。
ズーム機能はなかったが、画面に映る背後の様子は、画面を鏡として利用するよりも鮮明だった。
療治の開始直後は、ゆり子の股は緩く閉じられていた。それは、素股の正しいやり方だったと思う。挿入ではないから、太ももの付根の肉で一物を挟んで刺激するのだ。
今のゆり子の格好を例えて言うなら、ひっくり返ったカエルだった。だらしない恰好で大きく股を開いている。その中心にギンギンに滾った木村の一物があてがわれていると思うと、言い知れない興奮を覚えた。
腰を振り立てながら、木村が飽きずにゆり子の乳房を責め立てている。唾液にまみれたゆり子の乳房が、照明の下でテカテカに妖しく輝いていた。
「ああん、キム兄、そんなに、あああ、そんなに吸わないで。私の赤ちゃんじゃないんだからぁ、あああっ、ダメ、あっ、うぁん」
ゆり子は抑えが効いていなかった。本気で感じているように見えた。画面越しに、二度目の絶頂の予感があった。
「―――っつううう、あ、いあああ、くっっっ!!」
タオルケットが大きく盛り上がった。どすん、という大きな音―――気をやって宙に浮いたゆり子の臀部が敷布団の上に落下したのだろう。
最初の絶頂の時よりも、ゆり子の体は大きく痙攣していた。半開きの口の端から涎が垂れ、短い息を吐きながら絶頂の余韻に浸っていた。
一方の木村はというと、二回目の絶頂を迎えたゆり子に対して、まったく射精の兆しを見せていなかった。
今度は木村もゆり子の絶頂に気付いた様子だが、興奮冷めやらぬ視線を痙攣するゆり子に向けている。
ゆり子を絶頂に導いたことで自信がついたのか、木村は積極的な行動にでた。
息も絶え絶えなゆり子の両足を自分の両肩に乗せ、太ももを閉じさせた。体を固定して体重をかけるとゆり子の体が丸まる様にして九の字に折れた。腰にあったタオルケットが外れて二人の足元へ移動する。
いわゆる”まんぐり返し”の格好となったゆり子。露わになった股間を覆うショーツのクロッチ部分が木村の顔の前に晒される。
天井を向いたクロッチ部分は、本来の生地の色を失っていて、真っ黒い染みが広がっていた。
よく見ると、真っ黒い染みと思われたものは愛液で濡れた生地に陰毛が透けて見えていたもので、なんと陰唇の形までもが透けて見えていた。
木村の視線は、ゆり子の股間に釘付けになっている。ついに親友に自分の妻の股間を見られてしまった。ショーツ越しとは言え、あんなに濡れ透けていては、直で見るよりもかえっていやらしく映っただろう。
そして滾った一物に手を添えた木村は、ゆり子の太ももの閉じ合わされた付根の部分に遠慮なく一物を差し入れたのだった。
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