擬似、請負い妻 第49話

10月下旬。 仕事終わりに珠希さんと連絡を取り、吾妻の不在を確認してからスナックに顔出した。 NTR官能小説
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 出張先での仕事を終え予約していたビジネスホテルにチェックインした。
 夕食は一緒に来ている同僚と居酒屋で軽く済ませた。

 ほろ酔いでシャワーを浴びシングルベッドに横になると、旅の疲れが一気に噴き出す。

 ―――目を覚ますと、夜の9時を回っていた。

 ヘッドボードに置いていたスマホの通知ランプが点滅している。てっきり妻からの着信と思ったのだが、タップして確認してみると珠希からのメッセージだった。

『出張、お疲れ様』
という短い内容。

『疲れた~』
と返信すれば、秒で既読がついた。

 と、いきなり着信音が狭い部屋に鳴り響く。
 慌てて画面をスワイプし、スマホを耳に当てた。

『―――も、もしもし』

『あっ、もしかして寝てた?』

 少しハスキーで色っぽい声音が耳朶に届いた。吾妻との話し合いを最後に、珠希とは会っていない。彼女が吾妻と縁を切りスナックを辞めたので、会える場所というか、会う理由がなくなったのだ。
 互いの伴侶に隠れてメッセージのやり取りはしていたのだが、こうして声を聞くのは一週間ぶりだった。

『いや、起きてたよ』

『‥‥‥よかった。ちょっと声が聞きたくなって』

『あ、うん‥‥‥俺も、話せてなかったから。電話して大丈夫? キムは?』

 珠希と木村は結婚当初から実家の改装を理由に別居していた。
 珠希はマンション暮らしで、木村は実家。とは言っても、新婚の2人だ。木村からは、ちょくちょく珠希のマンションで寝泊りしていると聞いていた。

『今夜は友達と飲むんだって。その後は実家に帰るみたいだから大丈夫よ』

 珠希の話を聞いて、朝家を空ける時のモヤモヤとする感情が蘇った。
 俺と木村は地元の腐れ縁親友で付き合いが長い。だから珠希から聞いた、『友達』というワードに引っ掛かりを覚えた。

 どうしても『友達』の顔が浮かんでこなかった。木村の人間関係が意外に狭いことを俺はよく知っている。
 だから木村の友達イコール俺の友達という簡単な図式が頭に浮かぶ訳で‥‥‥そうなると当然、木村の参加する飲み会の話が事前に俺の耳に入るはずなのだが‥‥‥。
 まあ、急遽集まろうって話なら、出張している俺に話が回ってこないのは頷ける。

『信ちゃん、大丈夫?』

『あ、うん』

 不自然な無言が続いてしまい、珠希の声で我に返った。

『やっぱり疲れてそう。たしか出張は週末までよね、頑張ってね』

『ああ、土曜に帰るから。電話ありがとう』

『‥‥‥うん。逢いたいな』

『俺も‥‥‥』

 珠希の言葉に頷いてはみたものの、正直なところ互いに家庭がある身としては難しいように思う。
 彼女がスナックを辞めて一週間。ゆくゆくは木村の実家で、義理の両親と暮らしながら家業の酒店を手伝うことになるのだろうが、今は日中に働けるアルバイトを探しているのだとか。

『じゃあ切るね。おやすみ信ちゃん』

『おやすみ』

 あまり会話は弾まなかった。
 画面をタップし通話を終えたが、スマホの画面から目が離れない。

 出張先に到着した時点で、ゆり子には簡単なメッセージを送っていた。
 家を空けているので、本来なら仕事終わりのタイミングで電話の一本でもかけるべきなのだが‥‥‥迷いがあった。

 それは寝かしつけた子供を起こしてしまうから、という理由ではない。
 寝かしつけていて一緒に寝てしまったかもしれない妻を起こしてしまうのでは、という気遣からくるものでもなかった。

 ―――もっと別の、もっと異質な理由。

 だから直接話すのではなくて、メッセージを送ることにした。
 当たり障りのない内容で、自然な感じの―――入力しては消去する。それを何度も繰り返してやっと内容が確定した。

『疲れた~早く帰りて~。こっちは外人の観光客が多いわ。そっちは変わりない?』

 一呼吸おいて送信ボタンをタップした。
 まさか出張初日に一番気を使った場面がこれだなんて、バカげた話だ。

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