船上で寝取られて 第10話

NTR官能小説
 キスを自らせがんだ・・・・妻―――、体はおろか良妻として夫に寄り添ってきた心までもを若い燕に許した事に深い悲しみを覚えた。

 一度射精をすると、先程まで心の中を支配していた異常なまでの興奮は何処かへ消え去り、頭上から聞こえるキスを交わす音に耳を塞ぎたくなった。
 耐えられない思いでタオルケットを頭から被る。と同時に出入口の扉が開いた。

「うん? もう寝たのか―――」
 戻ってきた渡辺君の呟く声。ゆっくりと客室に入ってくる気配があった。すると頭上で息を殺す気配があり、程なくして目隠しのカーテンが開かれ田中の声がした。

「遅かったな。いま奥さんに北海道のガイドブックを見せてたんだよ」
「ふーん、大内さんの旦那さんは?」

「下で寝てるから、あんまり大きな声で喋るなよ」
「・・・・・・そうなのか。じゃあ俺も寝るかな」
 さっきまでの行為を感じさせない落ち着いた口調で田中が言った。やっぱりこいつは場馴れしているようだ。
 僕の存在をそれとなく確認した渡辺君。他意はないのだろうが、僕が2人を探して映画館へ向かった事実には触れなかったのでホッとする。
 
 渡辺君が僕の隣―――、通路を隔てった向かいの寝台の下段に腰をおろした気配があった。
「奥さん、田中がお邪魔してすみません」
「い、いいのよ。渡辺君―――、あっ、そうだ、メンテ、メンテナンス?」
 連れの馴れ馴れしい行為を詫びる渡辺君。答えた妻の口調は、慌てた感じで白々しものだった。

「マフラー交換したばかりなんで」
「そ、そうなんだ」

「しっ! 大内さん起きちゃうぞ」
 妻と渡辺君の会話に田中が口を挟んだ。今まで大きな音を立てて、僕の頭上で痴態を繰り広げていた張本人なのだが・・・・・・。
 芝居がかったような声で渡辺君を諭した。

「夫はぐっすり眠ってるみたいだから大丈夫よ。そろそろ休みましょうか」
「そうですね。ガイドブックは下船までお貸しします」
 
 会話を終えると、飛び移るようにして田中は自分の寝台へと戻った。妻の枕元の電灯が消え、暫くして隣の寝台の電灯も消えた。

 妻の不貞を身近に捉え、興奮冷めやらぬ、といった感情だったが、緊張が解けると旅の疲れがどっと押し寄せて、あれこれ考える暇もなく眠りに落ちた。

 ◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇

 ―――ピロロン、ピロロン、ピロロン

 夜半過ぎ―――、高音が耳障りな電子音で目が覚めた。
 暗闇で目を開け耳を澄ます。じっとしていると出航したての頃よりは、すこし穏やかになった揺れを感じた。
 
 頭上からゴソゴソと何かを探るような音が聞こえてきて、寝台が小さく軋んだ。どうやら妻が目を覚ましたようだ。手荷物でも漁っているのだろうか。
 徐々に頭が覚醒し、先ほど聞こえた電子音の正体に思い当たる。それは普段聞き慣れたもので、妻のスマートフォンから発せられる音―――、無料通話アプリの通知音だった。

 隣の寝台を気にしつつ、目を覚ました妻に声を掛けようかどうしようかと迷っていると、寝台のカーテンがゆっくりと開く音が聞こえた。
 音の方向からして目隠しのカーテンが開いたのが隣の上段、田中の寝台であることが分かる。

 寝台を降りた田中の気配は、そのまま静かに客室の出入口の扉を開けて通路へと出て行った。田中も僕と同じく妻のスマホの音で目を覚まし、トイレにでも行ったのではないのか、と考えた。しかし、暫くたっても田中が帰ってくる気配はなかった。

 一方、頭上の妻はというと―――、寝台の軋みもなくなり、静かになってしまった。相部屋なのだからマナーモードは常識だろうと思うのだが、こんな深夜の時間帯にメッセージを寄こす非常識な人間にも腹が立つ。
 頭上の妻が再び眠ったものと考えた僕の瞼が重たくなってきた時だった。

 ―――ヴゥーン、ヴゥーン、ヴゥーン

 頭上から低音の振動音が聞こえた。そう、あれはマナーモードにする時に選択できるバイブレーションの音だ。深夜、周りが寝静まっているところでは案外響く。
 
 バイブレーションが止まると、寝台が軋みゴソゴソと衣擦れのような音が聞こえ、今度はハッキリと妻の起き出す気配を感じた。
 梯子を伝って静かに寝台から下りる気配。僕の寝台の目隠しのカーテンは開けられることはなく、妻は客室から出ていってしまった。

 頭の中に疑問符が生じ、一呼吸おいてから体を起こした。
 冷え冷えと覚醒してゆく頭で冷静に考える。
 ―――妻のスマートフォンの通知音。その後に客室を出て行った田中。次に通知音を消していた妻のスマートフォンのバイブレーションの音。直感で無料通話アプリの通知だろうと、考えてしまう。そして田中が戻らない現状で、妻までもが客室を離れてしまった―――。
 
 ただ単に、妻はトイレに立っただけなのかもしれない。しかし妻と田中は、セックスまでには至っていないが、既に一線を越えている関係と言えた。
 普通に考えれば、無料通話アプリを使ってお互いに連絡を取り合ったのではないのだろうか。生じた疑念が胸の奥で渦巻いた。

 妻を探さなければ、と考えて寝台から出ようとした。しかし進めようとした足先は床に着くことはなかった。
 ―――何処を探せばいいのか? 
と自問してしまう。フェリーといっても案外広い。立入禁止場所を含めて考えると体が動かなかった。
 かわりにスマートフォンを取り出した。妻と同じ無料通話アプリの画面を開く。暫く画面を凝視ししたまま、戻ってこない妻に苛立ちを募らせた。

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