擬似、請負い妻 第34話

NTR官能小説
 親友の奥さんを金で買ったのは俺の方だった。

 吾妻と『先生』に駆け引きで勝利できたことには安堵しているが、まあ勝利と言ってもそれは一時の勝利なわけで・・・・・・一晩だけ珠希さんの体を知らない男の手から守ったことには違いないのだが。

 どんな事情があるにしろ、珠希さん本人がこういう状況から抜け出す決意を持たなければ現状は変わらないということ。
 
 公人こうじんの心理を利用してなんとか今夜を切り抜けたが、明日以降は珠希さんの体は俺たちの知らない男に弄ばれてしまうのが現実だ。

 『先生』は俺の言葉に散りばめられたワードを、処世術に長けているがゆえに上手く拾い上げてしまった。
 帰り際のマスコミを警戒する動きの滑稽なこと。まるでコミカルなスパイ映画のワンシーンを観るようだった。

 吾妻はというと、これが意外にも怒り出すようなことはなかった。愉快そうに笑って俺の肩を軽く叩くときっちり料金を請求して、「家族ぐるみの付き合いなんだろ? ゲス不倫を楽しみな」と言って店を出て行ったのだ。

 ちなみに請求額は30万円。簡単な計算だ。
 珠希さんの料金は、1回? 1晩? 10万円ということだった。現金の持ち合わせがなく後日払いにしてもらった。

 と、いうことで閉店後―――。

 店内で折り目正しく土下座しているのは誰であろうこの俺。

 珠希さんは目の前で腕組みして直立し、これまでの経緯を俺の口から聞いていた。

「私ってアイマスクをしてた?」

「し、してました」

 珠希さんから、はぁーという大きな溜息が聞こえた。床に頭を擦り付けている俺には顔が見えないし見る勇気がない。

「やっぱりあの時の・・・・・・」

「す、すみません」

「敬語―――!」
「―――ご、ごめんなさい。いや、ご、ごめん」

「なんでしたの? 私ってわかってたのよね」

「・・・・・・言わないとダメ?」
「言って」

「―――正直に言うと、珠希さんだとわかってから・・・・・・何て言うのかな―――裸を見てるともの凄く興奮してしまって・・・・・・一緒に連れて帰ろうかと思ったんだけど―――気が付いたら色々な考えが頭から吹き飛んでて、それで、つい・・・・・・ごめん・・・・・・」

「ついってなによ」

「返す言葉がないよ・・・・・・」

「あんなに舐めるんだ」

「うっ―――えっ!? 覚えてたの?」

「どういう意味?」

「吾妻が「仕上がってる」だったかな、そんな言い方をしてたし、実際に珠希さんも――― 言いにくいけど普通の状態に見えなかったから」

「違法な物なのかどうかは分からないわ。けど、客を取らされる前に錠剤を渡されてお酒と一緒に飲まされるの。そしたら勝手に体の芯が熱くなっちゃって・・・・・・ 恥ずかしいけど嫌な相手でももの凄く感じてしまうの。頭はぼーってしてるけど、意識や記憶が飛んじゃうってことはないから」

 俺の頭の中にあったイメージは、目の下に大きなクマを作った珠希さんが注射器を手にしている、というもの。
 
 珠希さんの話に土下座継続中の俺は少しだけホッとしていた。もちろん違法なセックスドラッグみたいなものがあるのも知っている。

 明日にでも色々と調べてみよう。本当に媚薬みたいな商品があるんなら珠希さんが飲まされているものが違法な薬物とは断定できない。

「変態さん」
「うっ」

「ペロペロと犬みたいに舐めてたわ」
「ううっ」

「それに―――キス大好きなんだ」

「か、勘弁して」
「だ~~~め」

「これ許されないやつ・・・・・・」

「そうねぇ~キスしてくれたら考えてあげてもいいかな」

「―――えっ!?」

 思わず上げた俺の顔に、しゃがみ込んだ珠希さんの顔が急接近してきた。
 そのまま上半身を逸らせて正座の姿勢に―――そこへ珠希さんが俺の膝に乗ってきて正面から抱き合うような格好になった。

「こんな私じゃ、嫌?」

「イヤ、じゃない・・・・・・」

 潤んだ瞳の珠希さんに顔の近くで囁かれて、首を横に振れる男なんているはずないだろう。

 ―――すまない木村、と心の中で詫びながら、ぷっくりとして肉厚な珠希さんの唇に自分の唇を重ねたのだった。

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